植物染料を使った絹織物をつくるには、糸が必要で、染料となる植物が必要で、糊が必要で、道具が必要です。
さらに言えば、良い水が必要で、良い土壌が必要で、気候に恵まれた自然豊かな環境であれば尚良し。

私が日々向き合っている「手しごと」は、畑を耕して(土をつくって)桑を育てて、蚕という虫を育てて糸を作ってもらうところからスタートします。

1年の始まりは大体3月末に桑畑の剪定をするところから。その後、4月〜5月は桑畑の雑草をとりながら肥料を撒いて、耕運機をかけて、また雑草をとって…を繰り返し、5月の末にお蚕さまの幼虫(3齢の稚蚕)を迎え入れます。6月いっぱいは毎日お蚕さまに桑を与え続け、良い糸を吐いてもらえるように栄養を蓄えてもらいます。6月末に繭が出来上がると、7月には糸とりが始まります。ある程度糸をとったら、植物を取りに行って、糸を染めて…そこからようやく織りの準備が始まります。ここまででおよそ半年。
糸の準備だけで1年の半分が終わってしまいます。

織りをはじめたのが今の環境だったり、素材づくりから携わりたかったり…自分が好きで選んだ環境なので、織りって「そういうもの」だと思ってました。

そのうち、絹糸を買ってきたり、染色済みの絹糸を頂いたりして織ることを試してみると「なんて楽なんだろう」と思いました。

織物は、染め方も織り方も本当に多種多様で…表現してみたいこと、やってみたい事は次々と出てくるのに、私の場合は糸づくりからはじめるので、1つ織り上がるまでの手間と時間を考えると、できることは本の一握り。なので、糸を作らなくて良いというのは、色々な方法を試してみたり、どんどん作るにはとても効率的です。

あとは既製の糸を使うと本当に最初から最後まで均一でキレイ。座繰りで作る糸は見た目は均一に見えても、どうしても繭を足したところは太く、繭が薄くなってくると糸が細くなりがちです。幾ら気を配っても、勘で作業しているところも多いので、まだまだ難しい。

ただ、その糸づくりからできることや、さらには糸をつくる為の素材づくりから関われる環境に居られることがいかに恵まれているのかも実感します。

色やデザインや織の手法だけではなく、眼に見えない触感や着心地も考えながら素材をつくり、反物を織り上げて行くというプロセスは、手間がかかって難しいけれどやり甲斐があって、ゴールはないけれど自分の想い描くところにいつか辿り着きたい…と高い理想を掲げてみたり。

私は着物が好きで、肌が弱いので天然繊維が好きで、中でも絹が好きなので絹織物の産地に来ました。「やってみたい」という単純な動機で始めましたが、実際は、畑仕事や養蚕、染色などは思った以上に体力が必要な仕事で、座繰り製糸や機仕事は集中力と忍耐力が必要な繊細な単純作業の繰り返しです。さらに、反物のデザインにはセンスや技法に関する知識が必要で、当たり前ですが全体を通して技術力が求められます。それでも、今の時点では「できるようになりたい」という想いで続けていて、続けられる環境にいられるという幸運に恵まれました。

まだまだ基本の「き」の段階なので、そんな理想に辿り着くのはいつになるのやら…さらに産地としての課題もまだまだ山積みですが、毎年少しづつ一緒に養蚕や織りに携わってくれる人も増えてきて、1人ではできそうになかった伝統工芸品の産地を残すという大きな理想を目指す一歩が踏み出せるようになってきたと同時に、自分の理想にも一歩ずつでも近づければいいな、と、今年の桑畑の作業がもうすぐ始まるタイミングで改めて思ったので、なんとなく書き残してみました。